行政書士開業で事務所を借りるな

行政書士の開業にあたって、まず最初の大きな選択は、『事務所を借りるか』、『自宅兼事務所がいいか』です。

私の経験として、これには、「自宅が使えるなら、まずは自宅で開業すべき」と回答したいです。

開業は未知の世界

まず、行政書士開業で買うべきもののページで前述のとおり、開業時の出費は最小限にすることが私のおすすめです。

そして、その理由はもちろん『リスクを減らせるから』です。

開業は未知の世界であり、予測が立たないものにいきなり高額な出費をするのは冒険でしかありません。

事務所についても、ステップアップの必要が出てきてから引越しても遅くはありません。

 

なお、行政書士会の『事務所の変更手続き』には手数料が1万円かかります(福岡県会での金額ですが)。

このため、自宅での開業を勧めた場合、「自宅から事務所へのステップアップする時に1万円を支払わなければならないじゃん」という指摘をなさる方もいるかもしれません。

ただ、私は、それはそれで誇らしい出費だと思います。

この際、その1万円はさて置き、まずは自宅での開業を検討してみてください。

ちなみに、逆に、事務所から自宅へ撤退するとなれば、その出費は、本当に苦しい『ダメ押しの1万円』になりますよ。

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開業当初はお金が苦しい

とはいえ、私も、実は、スタートは、事務所を借りて開業しました。

福岡市南区玉川町の一室を借りて、一年余り営業しました。

 

では、なぜ、それから自宅へ撤退したのでしょう。

それは、後の行政書士では食べていけない!?のページでも詳しく述べる話ですが、軌道に乗るまでの間は経営が苦しいものだからです。

開業間もない行政書士は収入がほとんどなく、事務所を借りていれば家賃が重くのしかかります。

単に『家賃』だけではなく、付随する固定支出も飛んでいきます。

もちろん、自宅兼の場合でも水道光熱費・通信費などの固定支出はかかりますが、自宅兼と異なるのは、事務所を借りれば、それらが『基本料金からフルでかかる』ということです。

その他、駐車場代・通勤交通費も計算に入れておかなければならないでしょう。

「いやいや、交通費は、自転車に乗って節約するよ」と考えるかもしれませんが、行政書士は『お客様に会いに行くこと』も、『重要書類を預かること』も多い仕事です。

ずぶ濡れでお客様を訪問するなんて愚かですし、まして、重要書類を濡らすなんて言語道断です。

ガッツだけでは、乗り切れないことも出てくるでしょう。

開業当初は時間も苦しい

また、事務所を借りると、苦しくなるのは、お金だけではありません。

移動や通勤など、時間での苦労がつきまとってきます。

特に、開業間もない行政書士は調べものが多いので、時間が足りないというのは相当にもどかしく感じるでしょう。

後の車庫証明で飯を食うな!?のページでも詳しく述べますが、事務所を借りているということは、次のような手間と折り合いをつけなければならなくなってきます。

 

例えば、『FAXや郵便等の受取り』という件です。

事務所が自宅でない場合、もし、お客様から、営業時間外や土日に「書類を送りました」と言われると、確認のために出勤しなければならくなります。

しかも、実際に行ってみると、『まだ届いていない』という無駄足を踏まされることも往々にしてあります。

それこそ、正月でも、年賀状の確認のために、毎日、事務所へ足を運ばなければならなくなりますよ。

また、1人経営だと事務所を留守にすることも多いため、さらに頭を悩ますことになるのが『再配達』です。

これは、実際問題として、『仕事の遅れ』を生じさせます。

なお、留守が多いということは、『留守番電話や電話の転送』のことも何とかしなければなりません。

開業時に買うべきもののページでも述べたとおり、『転送電話を導入すれば万事OK』という単純な話ではありません。

 

ちなみに、私は、開業当初、まったく軌道に乗らない日々が続いていましたので、『3年やってダメならあきらめよう』とか、タイムリミットを考えたりしました。

その短いタイムリミットの中で、多くの時間が『事務所を借りているがため』に使われていると考えたとき、やっぱり事務所は無駄だと思いました。

二重経費

他にも、例えば、『自宅で仕事をする』という件もあります。

仕事が終わらなければ、ノートパソコンを持ち帰るなど、家で仕事をしたいこともあるでしょう。

そうなると、プリンタは、自宅にも必要でしょうね。

ペン・はさみ・クリップ・封筒・コピー用紙などの文具も、自宅にも置いておきたいところです。

また、「明日、朝一番に役所に提出しよう」と考えているお客様の申請書類はどうしますか?

明日の朝いったん事務所に立ち寄るよりは、「今日のうちから自宅に持ち帰っておこう」と思いませんか?

 

…で、ここまでいくと、気付くはずです、、、「自宅に事務所が出来上がってる」と!

もはや、借りている事務所の方が、バーチャル状態です。

 

もちろん今は、クラウド等のシステムもあるので、『自宅に居ながらにして事務所のデータが扱える』ということもあるでしょう。

ただし、業務には、データだけでは解決できないものがたくさんあります。

お客様から押印等をいただいた申請書類などです。

どんなにIT技術が進歩しても、世の中のビジネスは、まだまだ『現物』のやり取りでできています。

行政書士においても、まだまだ、分厚い申請書類の束を窓口に持参するのが一般的なスタイルです。

 

つまり、開業間もない行政書士は、所詮『1人経営』であり、自宅を拠点にした方がスムーズにいくことが多いのです。

逆に、事務所を借りるということは、時間の無駄が生じる上、お金については事務所と自宅の二重経費がのしかかる事態にもなり兼ねません。

自宅でも仕事は取れる

そんなこんなで、私は、自宅に事務所を移した訳ですが、それによっていろいろな無駄が解消しました。

お金も時間も生まれました。

逆に、「今まで何て自分の首を絞めていたのだろう」と痛感しました。

 

ただ、ここで、これから開業される皆さんが気になるのは、『自宅と事務所では集客に違いが出るのではないか』という点だと思います。

これについて、私の経験としては、どこであろうと大差はないと思います。

(まあ、例えば、福岡と東京とか大きく地域が変われば、差はあると思いますが。)

 

正直なところ、撤退した当時、私は福岡市内でもそれほど仕事が取れていなかったので、そんなに比較できるデータを持っていません。

ただ、一つの事実として、筑紫郡那珂川町へ移ってから事業が軌道に乗ったということはあります。

華やかな福岡市内へ出れば、メリットもある反面、ライバルが多いというデメリットもあります。

そして、逆に、那珂川町だからこそ取れる仕事もあります。

というより、要は、『営業力』なのです。

営業力を身につければ那珂川町でも仕事は取れるし、逆に、那珂川町で仕事が取れなければ、福岡市に場所だけ変えても仕事が取れる訳ではありません。

その感覚は実際に経験しないとわからないと思いますが、だからこそ、ある程度、集客を経験してからの方が、賢い立地選びができると思いますよ。

 

なお、実家である自宅へ撤退した私ですが、お陰さまで軌道に乗り、開業5、6年目には引っ越し(結婚)をしました。

このため、現在の事務所は、厳密に言うと自宅ではありませんが(実家ですが)、事務所と自宅は目と鼻の先です。

 

新居は、好きな場所を選べたので、別に「そうだ、福岡市中央区の天神で!」ということもできたのですが、それでもやはり、『事務所と近い那珂川町』が一番働きやすいと思いましたよ。

逆に、『事務所ごと中央区に移る』という手もありましたが、事務所を移す必要がないくらい、那珂川町で仕事が取れていますし。

なので、もじ自宅が使えない事情があるのでしたら『自宅の近所に事務所を借りる』のが望ましいと思います。

もし、「いや、福岡市の中央で勝負がしたい」と思うのでしたら、住居ごと中央に移った方がいいと思いますよ。

事務所には人が来ない

「そう言われても、うちは汚くて狭いから事務所には使えないな…」と思われている方へ、もうひとつお教えします。

それは、「事務所に人は来ませんよ!」です。

その理由は、『行政書士の方からクライアントを訪問すればいいから』です。

お客様を訪問するスタイルを取れば、お客様はわざわざ来所する手間もなくなるので、かえって喜ばれます。

また、業務に必要な資料の束を、お客様にわざわざ重い思いをしてまで持ち出していただかなくてもよくなります。

私が、『筑紫郡那珂川町』という辺ぴなところに事務所を構えているからというのもありますが、実際、当事務所へ来所なさるお客様というのは年間5人もいません。

ただ、実際に事務所にいらっしゃる場合というのは微妙で、2016年までは『来所するクライアントとは成約に至らない』というジンクスが私にはありました。

こういう時には、「やっぱり、天神で立派なオフィス構えている方がいいのかな?」と思うこともあります。

ただ、逆に考えると、わざわざ那珂川町まで来所なさる方というのは、『自宅に来られたくない方』であり、『身元を明かしたくない』というような方ではないかとも思います。

そういう方というのは、そもそも依頼の意思がなかったり、行政書士から『情報だけ得たい』と考えているかもしれません。

つまり、『訪問させてくださる方(行政書士を迎え入れてくれる方)』というのは、訪問の時点で腹が決まっていると思われ、実際、『むだ足』も少ないですよ。

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あとがき

上記では、私の経験上、事務を借りないスタートをオススメしました。

とはいえ、これから行政書士で開業なさる方は、夢いっぱいだと思います。

「せっかくだから事務所を借りてスタートしたい」と思われるでしょう。

その場合、ぜひ事務を借りてください。

行政書士開業で買うべきもののページで前述した通り、一世一代の開業で、後悔を残してはいけないからです。

 

自宅で開業して仕事が取れない場合、「仕事が取れないのは自宅兼事務所だからじゃないか」と絶対に頭を悩ませます。

もし廃業した時、後悔だけは残してはいけません。

後悔を残して廃業して、「もう一度、挑戦したい」と思えば、無駄な時間の上塗りです。

『あなたの行政書士開業』ですので、後悔を残さないために、『やりたいことをやり切る』のも大切だと思いますよ。

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前後のトピック