先日、テレビで、「福岡は、角打ちの多い地域だ」と紹介されていました!
特に、北九州市側に多いようです。うちの近く、福岡市南区でも見かけますねー。
ただ、酒類小売業の免許申請に関わる行政書士としては、『角打ち』という形態には、ちょっと疑問を持ったりします。
酒税法の抜け穴・トリックというか、グレーゾーンな営業方法のようにも思います。
酒類小売業免許と飲食業許可
例えば、福岡だと、『あんくるふじや』という酒屋があります。
居酒屋だと、『白木屋』というのがあります。
どちらもお酒を売っているのに、何が違うのでしょう。
そりゃ、外観やサービスが全然別物です。
ただ、酒税法上も、決定的な違いがあるのです。
それは、酒屋は『酒類の小売販売』で、飲食業は『酒類の飲食提供』なのです!…って、なんと当たり前の話を。
ただ、例えば、居酒屋で瓶ビールを注文したら、瓶ビールは、絶対に、ふたを開けてから提供されることを知っていますか?
なぜなら、ふたを開けて提供しないと、『小売販売』に該当しちゃって、酒税法違反だからです。
では、『角打ち』では、ふたは、どうでしょう?
閉まったままですよね!
ということは、角打ちは、『酒類小売販売業者』です。
まあ、角打ちって、基本的には酒屋さんなので、皆さんも、そうだろうと思っていたでしょうけど。
ちなみに、酒類について、『小売販売』を行う場合は、酒税法上の免許が必要です。
一方、『飲食提供』する場合には、酒税法上の免許は不要です。
つまり、飲食店が『ふたをしたままで提供する』ということは、『無免許で酒類を小売した』というルール違反になりますよー。
飲食業者は酒類免許が取れない
さて、上記では、角打ちが『酒類小売販売業者』だと書きました。
そうすると、「いやいや、小売業者でもあり、飲食業者でもあるんじゃないの?」と思われたかもしれません。
ところが、『小売業者である』ということは、『飲食業者ではない』ということなのです!
なぜなら、酒税法上、『飲食店では、原則として、酒類免許が取れない』と決まっているからです。
なお、『原則として』という含みは、『営業を明確に区分する』という措置が取れた場合などです。
例えば、飲食店でワイン等が販売されているのを見かけたことがありませんか?
これは、『飲食業での酒類』と『小売する酒類』の販売スペースを、仕切りなどで明確に区分すること等によって、飲食店でも例外的に酒類免許が取れるというものです。
ただ、角打ちは、どう見ても、『小売業』と『飲食業』がごちゃまぜになった形態です。
明確に区分されているとは、到底思えません。
なぜ、こんな営業が認められるのでしょうか?
酒類免許の仕組み
ところで、酒類販売業と飲食業をごちゃまぜにしてはいけないとして、角打ちはなぜ、そのようなグレーな営業をしなければならないのでしょう。
それは、角打ちの最大の魅力が、『小売店の価格でお酒が飲める』という点にあるためです。
さて、酒類は、『小売販売』と『飲食店』で価格が異なります。
例えば、スーパーで200円で買えるビールが、『店で飲むと500円』ということがありませんか。
酒類の流通は上記のようになっており、飲食店なら、小売業者から仕入れることになっています。
流通の仕組み上、当然、下流に行くほど利益が上乗せされるので、飲食店価格で飲めば高い訳です。
ところが、角打ちの魅力は、『小売店の価格でお酒が飲める』という点です。
この点を流通の仕組みと両立させると、どうしてもグレーな部分が出てきてしまうのです。
酒税法上の仕組み
では、『小売店の価格でお酒が飲める』という角打ちの魅力は、いったい何が問題なのでしょうか?
一般消費者にとって、ありがたいことですし、もっと推奨すればいいと思うかもしれません。
ただ、『売る側』にとっては、問題が発生します。
例えば、飲食店ならば、酒類は、上記のように、小売業者から仕入れます。
飲食店は、その価格に自分たちの利益を上乗せし、販売します。
そこで、何とか精一杯まで企業努力をし、仮に『生ビール500円』という価格設定が、利益の出るギリギリだったとします。
そこに突然、小売業者が現れて、「うちなら、200円で飲めるよ」と言ってしまえば、飲食業者にとっては、たまったものじゃありません。
もっと言えば、酒類の卸売業者が現れて、「うちなら、50円で飲めるよ」となれば、全国の飲食業者は成り立ちません。
『酒類販売業免許を持った者だけが、格安の酒類を提供できる』ということになってしまいます。
酒類は、公正取引法上、特権的な価格の不平等を生んではならず、『飲食店では、原則として、酒類免許が取れない』という酒税法上のルールがあるのです。
なお、酒類免許の申請書類では、下記のようなチェック項目があります。
飲食業と酒類販売業の両立は、原則として認められておらず、例外的に認められるには、物理的な『空間』だけでなく『仕入先』や『台帳』なども区分し、それぞれを別の営業としなければなりません。
ちなみに、酒類免許の申請書には、下記のようなチェック項目もあります。
別の敷地であっても、飲食業を行っていれば、酒類免許の取得は、ウェルカムではないですよー。
税務署との協議が必要でしょうね。
角打ちのカラクリ
さて、では、角打ちは、どうやって酒屋で飲食提供を行っているのでしょう。
その答えは、『飲食提供を行っていない』ということです。
角打ちとは、食品衛生法許可に基づく『飲食業者』ではないのです。
つまり、角打ちは、『酒類の小売を行っているだけ』なのです。
店内で飲み食いできるのは、『お客様が勝手にイートインしているだけ』なのです。
ちなみに、飲食業の許可がなければ調理したものは提供できません。
このため、角打ちで提供される飲食物は、『開封しただけの豆腐』とか『ナッツ』とか、既製品の提供が原則だと思われます。
なお、酒類免許は歴史が深く、大きな制度改正も経てきました。
私は、古い制度には詳しくありませんが、もしかすると、制度改正前に酒類免許を取得された方は、飲食業と両立できる既得権をお持ちなのかもしれません。
ただ、これから「角打ちを始めたい」という方にとっては、酒類免許の仕組み上、実現するためには、違法にならないスキーム作りが必要でしょうねー。
酒類免許ブログの目次
- 酒類のオーダー販売免許
- 酒類免許申請の賃貸借契約書
- 酒類免許変更届は行政書士の仕事ではない!?
- ダイレクトメールが不発!?
- 酒類のオーダー販売免許(前ページ)
- 角打ち酒場の免許(current)
- 夏祭りで酒類を販売する免許(次ページ)
- 酒類を詰め替える