前述の車庫証明の仕事の取り方のページをお読みになった方は、「よし、その方法で車庫証明代行をどんどん受注していこう!」と意気込まれたかもしれません。
ただ、結論から申しますと、車庫証明代行は新規の行政書士にとって『食べていける業務』ではないと思います。
行政書士初心者の方へ『勉強のためにお勧めする業務』ではありますが、『行政書士業としての最大限にお勧めする業務』ではありません。
当事務所も、車庫証明代行は、今、メインとして取り扱ってはいません。
ニーズの限界
さて、私が、車庫証明代行を『行政書士にとって、食べていける業務でない』と思う第一の理由は、『ニーズの絶対数』です。
前述の車庫証明の仕事の取り方のページで述べたとおり、車庫証明代行とは、上記のような構図です。
そして、我々新参者の行政書士がターゲットにするのは『県外のディーラー』だと述べました。
そうなると、皆様も察しがつくと思いますが、そのようなニーズは、そもそも絶対数が少ないのです。
自動車は、普通、自分の地元で買いますよね。
つまり、前述の車庫証明の仕事の取り方のページで、『1万円の営業費で、3万5千円の受注を得た』という話をしましたが、『では、10万円の営業費をかければ、35万円の受注が得られるか』というと、そうではないのです。
ただ、この暗い話に、明るい面を見出すとすれば、どんな業務でも『リピーターが発生する』ということはあります。
車庫証明代行でも、ごひいきにしてくださるディーラー様が、必ず現れます。
そういう意味では、『絶対に報われない業務』ではないとは思います。
ただ、このことは、逆に言うと、ディーラー様によっては『取引きする行政書士を決めている』ということでもあるでしょう。
実際、私も、DMが『受取り拒否』で返ってくることがあったので、そういうことだと思います。
なお、『受取り拒否』は感情的にはショックを受けますが、二度と送らなくて済むように、わざわざ先方が優しさで拒否扱いにしてくださっていると思いますよ。
業務量の限界
次に、車庫証明代行を『行政書士にとって、食べていける業務でない』と思う第二の理由は、『業務量』です。
以前にも述べましたが、車庫証明は、『スピードを求められる業務』です。
例えば、『建設業許可業務』にとって、1、2日の差はあまり気にするところではありません。
2、3ヶ月というスパンの中で、自分なりにスケジューリングして進められます。
ところが、2、3日で完了する車庫証明は、事情が異なります。
1日の遅れはというのは、『目に見える差』です。
車庫証明代行というのは、『今日か明日にはやらなければならない』という仕事が、『突然入ってくる』という業務です。
『短期的にすごく時間に追われる』ということになります。
この点で、車庫証明は、複数の案件を同時並行しにくい業務です。
また、黙っていても仕事が入ってくる訳ではないので、並行して営業もしなければなりません。
DM送付もばかにならない作業です。
つまり、ひと月をトータルすると、『収入の割に、忙しすぎる』という状況になると思います。
営業時間の限界
車庫証明代行を『行政書士にとって、食べていける業務でない』と思う第三の理由は、『営業時間』です。
さて、ディーラー様というものは、基本的に『土日が営業日』です。
一方、行政書士はどうでしょう。基本的に『土日が休業日』ではないですか?
つまり、車庫証明に手を出すと、行政書士としては、土日に休んでいられなくなります。
「休日でも携帯電話くらいは出られるよ」なんて思っていますか?
いや、あなたは広告費を投じて、『車庫証明を代行します』とDMを送っているのですよ。
「その電話よ鳴れ」と願いながら、一方で、脱衣所に携帯を置きっぱなしで温泉に入るのですか?
言っておきますが、ディーラー様にとって車庫証明の代行は、『急いでくれれば誰でもいい』のです。
警察署へ代わりに書類を運んでくれるだけの、いわば『おつかい』です。
建設業許可などの専門的な許認可申請ならまだしも、車庫証明なんて、『是が非でもあなたに頼みたい理由』がないのです。
あなたに電話がつながらなければ、すぐに別の行政書士に決まってしまいますよ。
人間なのでいつでも完璧ということはないと思います。
それでも、あなたは「うちにお任せください」と大風呂敷を広げてDMまで送っているのです。
少なくとも、『DMを送っていない行政書士と同じスタンスで土日を過ごす』という訳にはいきませんよ。
事務所の撤退
そういえば、前述の行政書士は事務所を借りるなのページにおいて、『借りていた福岡市の事務所から、自宅兼事務所に撤退した』というエピソードを書きました。
この『撤退した時期』というが、ちょうど、車庫証明代行にのめり込んでいたこの時期でした。
この頃は、ディーラー様から「書類を送った」と電話が入れば、『FAXや郵送物の確認』のために、土日でも事務所へ出勤するという日々でした。
収入は少ないのに、時間ばかりに追い詰められるという状況のため、改善策を模索しました。
そこで、決意したのが『自宅への撤退』です。
この撤退は、行政書士として『仕事が取れる兆し』がやっと見えてきたところだったので、表向きには『ポジティブ』なつもりでした。
ただ、事務所の解約手続きをし、余計な物品を売り払ったり捨てたり、そして、最後に、事務所のブレーカーをガタンと落とした時には、今まで人生で感じたことがないくらい頭の中が真っ白になりました。
「オレの福岡市の事務所は潰れたんだ…」という敗北感が漂いました。
呼び名としては『廃業』ではないかもしれませんが、意味としては、これは『廃業の経験』だったと思います。
「この空しさは二度と味わってはいけない」と、強く自分に誓いました。
また、ここで私は、『事業が上手くいかない人』の苦しみというのが本当にわかるようになったと思います。
さて、こんな『重い誓い』をよそに、自宅へ撤退した私には、おのずと『いい兆し』が舞い込むようになりました。
その要因は、事務所を自宅にしたことで、思った以上に体が軽くなったことです。
郵送物の『再配達地獄』から解放され、通勤や移動の負担が減り、業務時間が大幅に増えました。
休日も、少し、休日らしくなりました。
そして、何より収穫になったことがあります。
それが、『考える時間が増えたこと』です。
そもそもの限界
そこで、車庫証明に話を戻しますが、『考える時間』が増えた私は、あることに気づきました。
それは、『どれだけ車庫証明を受注すれば食べていけるのか』ということです。
そこで、私が立てた計算があります。
受注を、仮に『1日1件』とした場合の『車庫証明代行の収入計算式』です。
その式で計算すると、車庫証明で食べていくということは、『代行報酬1万円 × 月30件 × 毎月 × 毎年…』と考えられます。
そこで、はっとしました。
皆様もこれを見てすぐに気付いたと思いますが、つまり、『これは無理』なのです。
『一日1件の車庫証明受注』
『それが毎日ずっと続く』
これは、どちらも全くリアリティがないので、『そもそも無理』だということを悟りました。
ここでようやく、私は、『車庫証明以外の業務』に目を向けました。
『車庫証明で培った営業の嗅覚』を使って、次の一歩を踏み出すという日々が始まったのです。
それからの一進一退は、決して100%スムーズだった訳ではありません。
失敗も、報われない広告費もたくさんありました。
それでも、ここで一度『営業の感覚』をつかんだところからのステップアップは、開業当初の『ゼロから』とは格段に異なるものでした。
どんなに小さな経験でも、必ずあなたを一歩前進させます。
たかが車庫証明ですが、ここでの話が、集客で悩む行政書士の方の何かのお役に立てば幸いです。