職務上請求とは行政書士等に与えられた特別な権限であり、簡単に言うと委任状なしに戸籍謄本や住民票の交付を受けられることです。
まず、職務上請求の用紙は、行政書士会で購入します。複写制の定型様式であり、パソコン等で自作することはできません。他人の個人情報に踏み込む権利なので、適正使用を遵守しなければなりません。職務上請求の使用に関する研修を受講しなければ購入できず、複写の控えは2年間の保管義務および行政書士会によるチェックを受けます。
使い方は、必要事項を記入した職務上請求書を窓口に提出することによって住民票や戸籍謄本の交付が受けられます。 また、職務上請求には行政書士証票の提示も必要です。ちなみに、委任状の場合は運転免許証等の提示が必要です。私は、面倒なのでいつも両方を提示しているため、今となってはこの説明が正しいのか実感がないくらいです。なお、郵送で請求する場合は手戻りを避けるため、行政書士証票と運転免許証の両方のコピーを同封するのが間違いないでしょう。特に、自宅兼事務所でない行政書士は行政書士証票だけでは住所がわかりません。窓口によっては住所が確認できないことに支障があると言ってくる場合もありますので、両方の同封がスムーズだと思います。
ちなみに、当事務所は、委任状をもらうようにし、できるだけ職務上請求を使わないようにしています。職務上請求を使うと、行政書士の身分に酔いしれたりするものですが、実際はそれと引換えに背負うものが大きいのです。前述の通り、用紙を購入するのに手間もお金もかかりますし、管理もまた大変です。住民票のページで紹介したエクセル様式等、委任状なら作業をパソコン化もできます。特に、通常の許認可業務であれば、委任状で仕事が回らないとすれば、自分の業務の運び方にを反省したいところです。相続業務では職務上請求が力を発揮しますね。
職務上請求の使い道
これから行政書士で開業される方にしてみれば、「たかが戸籍と住民票の請求が簡単になるだけ?」と思われるかもしれません。 戸籍謄本や住民票は誰でも馴染みのあるものだからです。 ただし、それは、ご自身(または身内)の住民票等だからではないですか?他人のものとなると話は別で、代理請求が簡単になるということは行政書士業務においてはとても便利なこととなのです。
例えば、相続業務において相続人全員から委任状を集める負担は大変なものです。戸籍謄本のページで説明した通り、相続業務で取扱う戸籍は複雑であり、委任状だと何枚もらうのかも事前に読めたものではありません。
権限の大きさに注意
ただし、職務上請求は使い方を誤れば怖ろしいものにもなります。 例えば、探偵業者に職務上請求を売り渡して逮捕された士業もおり、 身元調査やストーカー行為などにつながる悪用の事例がこれまでにも多々あります。職務上請求の権限は大きさを肝に銘じておかなければなりません。
なお、最近では、職務上請求が行われた際には、請求があった旨を本人に通知する自治体も増えており、士業による不正使用を防止する仕組みも整備されています。用紙についても、続き番号で管理され、偽造ができない様式(透かしが入っている)に改訂されています。
私が感じる実態
行政書士は高い倫理観をもって職務上請求を使用しなければならないのは当然です。ただし、行政書士会や窓口で職務上請求の適正使用を注意喚起しているのが、漠然としたスローガンでしかないのではないかと気になります。実際、具体的な使用方法を質問し、行政書士会の研修や実際の役所窓口でさえも明確な回答を受けられなかったことがあります。職務上請求は重大な権限ですので、使用法についてケースをあげてわかりやすく徹底してほしいものです。次ページでは、ケースについて考察してみます。
4章目次
- 福岡の官公署
- 住民票
- 戸籍謄本(前ページ)
- 職務上請求(current)
- 職務上請求のケース①(次ページ)
- 身分証明書
- 登記されていないことの証明書
- 納税証明書
- 登記事項証明書
- 実費と事務所の経理
- 固定資産評価証明書